LOG IN

ゆるやかなつながり。

by 城崎温泉 富士見屋

 おすそわけの、おすそわけ。

 新型コロナによる休業要請で、旅館を休館していました。「じゃぁ、その間、何をしていたの?」と聞かれたら、これが結構やることってあるもので、気付いたらあっという間に2ヵ月が経っていた、というのが本音でしょうか。幸運なことに、わたしが暮らす但馬地域は感染者が出ていないため、都心部に比べると外出自粛への縛りが緩かったからかもしれません。

 最初の頃は、「何かしなければいけないんじゃないだろうか」と焦燥感にかられてしまい、あれこれと考えていました。でも、通販をやれば宅配業に携わる方々の感染リスクがあがってしまうし、宿泊券をネット販売するのは「見知らぬ誰かから前借りする行為」にすぎないし、あの状況下においてしっくりくるやり方を思いつかず、とりあえず「じたばたしないことをする」と、決めたのです。

 ちょうど季節は春。旅館の裏山には筍が顔を出し始めていて、今日掘っても次の日にはもうにょっきり。1日ほおっておくとすっかりに竹になってしまうため、毎日様子を見に行く。主人も、日々の旅館のことに手をとられてなかなか手を付けられていなかった裏山の整備に着手したため、毎日ふたりで裏山にあがり、主人は竹を切り、わたしは筍を掘る。気が付けばそれが日課になっていました。

 堀った筍を嬉々として料理をし、食卓に並べていたのも数日のこと。次第に食べることより掘る方が楽しくなって冷蔵庫が筍だらけになり、行き場のない筍たちはご近所さんや、都会に暮らす友人のもとへ。掘らないと竹になってしまうし、堀ってももう食べられないし、引き取ってもらえるだけでありがたいのに、なんと、ほとんどの方がお返しをくださったのです。ラー油、バター、洒落たノート、ワカメ、ジャム、お菓子、獲れたてヒラメ、珈琲豆などなど。ありがたいのはもちろん、手に取るとその人の顔がふと浮かぶのがいい。想定外だったけれど物々交換を日々繰り返す中で、貨幣を介さない交換は人と人のつながりもより生みやすいんじゃないだろうか。そしてそのつながりはほどよくゆるやかで、体温のようなほどよくぬくもりがあるような気がしたのです。もちろん、貨幣を介した交換と介さない交換のどちらがいいかなどと、優劣を決めたいわけではありません。自分自身がゆるやかでやさしく、心地いいと感じられる消費の循環の中に身を置いておくって大事なことだとな、思っただけ。ただそれだけのことなんですけどね。

 そこで、わたしたちもひとつはじめることにしました。それは「おすそわけの、おすそわけ」。富士見屋からお客様に、ささやかなおすそわけをする、というものです。

 今年は、農家さんから朝倉山椒をたくさんいただいたので、小さな瓶にオリーブオイル漬けを作りました。数はわずかですが、ご希望のお客様におすそわけします。ただし条件がひとつ。それをおうちでどんな風に使っていただいたかをハッシュタグ付きでインスタグラムに投稿してもらいます。投稿を通して、わたしたちも新たな使い方を発見できる上に、お客様同士、そして富士見屋、山椒を作った農家さんともゆるやかにつながれる。そんなふうに、「おすそわけの、おすそわけ」を通して人と人がつながりあうって、とても素敵なことだと思うんです。ちなみに、朝倉山椒のオリーブオイル漬けの次は、わたしの実家で採れる梅の実で作る何かの予定です。手作りの品なのでお口に合うかどうかわかりませんが、どうぞ気兼ねなく、このゆるやかなつながりに加わってください。

富士見屋 若女将

OTHER SNAPS